<4、音響家の勝負所>


 まず質問します。

1、音響家であるあなたは音響メーカーの電子技術者に電子回路、スピーカー設計等の音響技術について勝てますか?
2、音響家であるあなたはミュージシャン、アーティストの芸術性について勝てますか?

いづれもNo と答える人がほとんどでしょう。私もそうです。
そして「私たちは劇場に来るお客さん全てに、一番ベストな音響空間を提供するのが仕事であり、先の勝負はナンセンスである」と反論する方がほとんどでしょう。

では再質問します。
3、一番ベストな音響空間とは何ですか?

この質問に対する答えは、スピーカーの選定、スタッキング方法、マイクロフォンの選定、立て位置、コンソールの選定など音響機器の使い方のノウハウの答えがほとんどだと思います。

 現在の舞台音響技術者は前述の技術を技術と認識していますが、その実体は1、2の質問にNOとしか答えられない程度でしょう。なぜならば過去の経験技術でしかそのノウハウがないからです。さらに現場の技術者によって音の出来上がりには大きな差が生じます。人によって差が生じる物は「技術」とは言えないのではないでしょうか?

 これに対して「差こそエンジニアの感性だ」との反論が聞こえてきそうです。

 では現在のレコーディング、PAにおける音の創造の原点はどこにありますか?
ポピュラー音楽においては欧米音楽の音の作り方の模倣からきていませんか?

 模倣は感性ではありません。

 ドラムンベースが流行れば何が何でもドラムンベース。
 ゲートリバーヴが流行れば何でもゲートリバーヴ。etc・・・・・・・

 これはもうオーディオマニアの世界に近い物があります。「マニア=趣味」なのです。

 極論を言えば、高価な機材を集め、好きな音楽をやり、なおかつ多少なりとも収入が得られる。まさしく趣味の世界です。

「我々は音を作っている」と主張する人。
なんと高慢な発言でしょう。
「音を作っているのはアーティスト」なのです。
アーティストが創造した音楽を記録または再生する際、「音響技術者が音を作っている」というのはとんでもない間違いです。

 「これが俺の音だ」と主張する人。 

 今出ている音は「メイヤーの音」じゃないでしょうか?

 スピーカーが変われば音は変わるのは当たり前のことで、指定した機材がないと音が作れないのは「音楽をしていない」ということです。またそのアーティストの音楽性をも理解していないことです。

「BEATLES を750円のスピーカーで聞いても、MAYERで聞いてもBEATLES」ではありませんか?

 ここに音楽の「基本が」あると思います。

 イギリスのミュージシャンがこう言っています。
 「日本の楽器は本当にすばらしい、イギリスでは作れない。しかしその楽器で作る音楽は日本人には絶対負けない」と。逆にこう書けます。

 「日本の楽器は本当にすばらしい、イギリスでは作れない。しかしその楽器で作る音楽は欧米人に絶対勝てない」。

 今の日本の音楽シーンはこの言葉に象徴しています。J-POPが欧米ヒットチャートにあがらない現実はその証明です。

 このような中で音響家は何を勝負所にすれば良いでしょう。

 まず機材ではないのです。機材、機材といっている間は絶対に勝てないし、ミュージシャン=エンジニアになりつつある現在、音響家不要になり自滅していくでしょう。

 音楽は他人に聞かせるものです。

1、何を聞かせるか、伝えるかが明確になっているか?
2、マイクに入る前の音が1を満足しているか?
3、音の創造に関しての最先端電子技術を修得するための勉強を怠っていないか。

以上が最低限の基本だと思います。

1、2がわからなければ、ただ単に音の羅列になってしまいます。

3がわからなければ、最新機器を使用したに過ぎないし、欧米の模倣で終わってしまいます。

 アーティストが創造した音楽性を理解し、その音楽性をさらに高め新たな文化になるように仕上げるのが真のプロフェッショナルな音響技術者であり、そこが唯一勝負できる所ではないでしょうか。