<6、音響デザインとフェーダー操作の実際例>
台本をからどのように音響デザインするのか、フェーダー操作するのかを実際例を紹介して行きます。
---参考台本-----
太陽が水平線に沈もうとしている海岸で男は今まで言おう、言おうと思っていた事をついに言葉にした。
男「きれいな夕日だね」
女「・・・・・・・」
男「俺、君のことが忘れられないんだ」
女、男の目をみつめる。
男「君無しでは生きて行けない」
女目をそらす。
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1、情景はオレンジ色の太陽が沈みかけている海と海岸
2、男の気持ちは女に愛を告白した緊張感と不安感
3、女の気持ちはそれを受け入れるか、入れないかといった幸福感または緊張感、とまどい
以上の情景、心理が考えられます。
ここでは波の音と海鳥の効果音を用いることにします。
しかしこの台本にはない前後の内容によって探すべき音素材そしてEQ処理が変わってくるのを忘れないで下さい。
そこでこの台本の前後に以下の2タイプの意味があるとします。
A、女は男の告白を受け入れる気持ちがある
B、女は男の告白を受け入れる気持ちがない
---音響デザインの開始-----
まず台本に書かれていない台詞を考えます。赤文字をA、青文字をBとします。
<例>
男「きれいな夕日だね」
女「・・・・・・・」「本当にきれいね」「少し寒いんだけど」
男「俺、君のことが忘れられないんだ」
女、男の目をみつめる。「嬉しい」「海行こうっていうから来ただけなのに」
男「君無しでは生きて行けない」
女目をそらす。「しあわせー」「何をいまさら」
とすると、以下の効果音の選択、加工が必要になることがわかります。
波音は夕暮れということでゆっくり押し寄せては引くという音を探します。EQは押し寄せた時はHiを少し上げ、引くときは少しCutします。
海鳥はカモメの少し長めの泣き声と短めの泣き声それぞれ1個づつ探します。長めの泣き声は3回ぐらいのRepeatをかけたDelay加工をし、短めの泣き声はEQのHiをかなり上げて少し硬めの音にします。
以上の素材を準備した後、効果音のあてはめ方、フェーダー操作は下図のようにします。
<Aのパターン>
波音は台詞より大きくならず、男の台詞で波押し寄せ音、女の裏の台詞で波の引き音になるように合わせます。こうすることにより波押し寄せ音と男の主張がより明確に表現できます。また引き音は女のほっとした幸せ感、優しさが表現できます。
1回目のカモメの鳴き声は女の「・・・・・・」の裏の台詞(赤文字の台詞)と同じになるように音量を調整します。実際は女が男の目を見るために顔を上げて「本当にきれいね」というタイミングで、かつその台詞が聞こえるように音量設定し再生機器のスタートボタンを押します。
2回目のカモメの鳴き声は女の幸せ感、うれしさをはっきりを見せるようにします。女が男から目をそらし海の彼方または足下を見て胸が熱くなる所で再生機器をスタートさせます。1回目のカモメの鳴き声より少し低めの音量に設定します。
<Bのパターン>
波音の最初はAパターンと同じです。
女の「・・・・・・」で押し寄せる波音の音量をを少し上げ、男の台詞の前までに元に戻します。
-----女の白けた心を空虚な波音で表現します-------
-----男の「俺、君のことが忘れられないんだ」はAパターンと同じです---------
男の「俺、君のことが忘れられないんだ」で波音の音量を上げます。音量の上げ方は女が男の目を見るために顔を動かす動作に合わせて音量をに上げるようにします。「君無しでは生きて行けない」の前までに元に戻します。
-----「ただついてきただけなのに」と女の少しいらだった心情を表します--------
-----「君無しでは生きて行けない」はAパターンと同じです---------
「君無しでは生きて行けない」で女の気持ちがいらだちから怒りに変化します。女が目をそらすために顔を動かす動作に合わせて音量を今まで以上に上げます。そしてすぐに戻します。
-----女の怒りの心情を表します--------
1回目のカモメの鳴き声は女の「・・来ただけなのに」の主張としての音量を調整します。実際は女が男の目を見るために顔を上げたに瞬間に再生機器をスタートし、男の言葉に反発するように男の台詞より大きな音に音量調整をします。
2回目のカモメの鳴き声は女の「いいかげんにしてよ」といった気持ちを見せるようにします。女が男から目をそらし足下を見た瞬間に再生機器をスタートさせます。1回目のカモメの鳴き声と同じ程度の音量に設定します。
A、Bどちらのパターンも効果音が心理描写や台本に無い台詞になっていることがわかるでしょう。従って音を再生するすべての場面にこの様な音響デザインが必要なのです。音響デザインがないまま再生すると芝居と効果音が遊離してしまうこともお解りになるでしょう。