安全作業管理マニュアル (2010.6.30 改訂、施行)抜粋



第1章 安全作業管理マニュアルの基本的理念


1.目的
 この安全作業管理マニュアルを作成、施行する目的は「舞台芸術に対する創造的な姿勢および発想は、個々の安全に対する義務と責任を基本として業務に携わることにより高められる」ということを理念とし、これを当社の安全作業管理の基本とする。
劇場内や野外の公演に従事する当社社員、当社社員以外のスタッフ、観客および施設に対して、事故防止対策ならびに発生時の適切な対応など社員一人一人の安全意識向上と安全管理体制を確立し、適切かつ安全で質の高い舞台公演の提供を図ることを目的とする。

2.安全作業管理の取り組みに対する考え方
(1) 舞台事故の現状と対策
 舞台における事故は、不注意による小さな怪我や劇場施設破損が大半であるが、転落による死亡事故、吊り物落下による大怪我、死亡事故がわずかであるが発生している。舞台機構、照明機器、音響機器、特殊効果機器などの重量化・複雑化等により安全確保の観点から、今まで以上に事故の予防、対策を推進することが重要である。

(2) 舞台の安全に関する基本姿勢
「人間はエラーを犯すもの」という観点に立ち、事故を起こした個人の責任を追及するのではなく事故を発生させた安全作業管理システムの不備や不十分な点に注目し、その根本原因を究明し改善していくことを主眼とする。 また「常に事故を絶対に防ぐ」という強い信念のもと、舞台技術の向上を図るとともに総合的な安全管理を確立させることを基本姿勢とする。この基本姿勢の必要性、重要性を全社員に周知徹底し、共通の課題として積極的な取り組みを行う。

(3) 安全作業管理の具体的な方策
① 安全管理体制の構築、事故予防ならびに事故発生時の緊急対応について、社内全体が機能する安全管理体制を構築する。
②実際に起こった事故の情報収集、分析、対策立案を的確に行う体制を構築する。
③安全に対する基本的な考え方や予防・再発防止策の周知徹底のため、全社員を対象にした安全機器、装備の支給、携行および教育を実施する。
④事故発生時には、舞台スタッフ、キャスト全員の安全確保を最優先するとともに、事故の処理および事故の再発防止策を早期に検討、実施することを周知徹底する。

第2章 安全確保のための予防対策



① 義務と責任に関して
 搬出入、舞台における安全責任者は舞台監督であるが、当社の管轄部分における安全責任者は、その現場のチーフとし、搬出入前に必ず打ち合わせを行い、責任の所在と安全作業への義務を明確にし、お互い積極的に協力し合い義務を果たすこととする。
また当社発注の外注には、この安全作業管理マニュアルを熟知させ(特に外注チーフにはこのマニュアルを発注時に手渡すこと)、事故予防対策、事後処理を的確に実行させるようにすること。

② 仕込み図(舞台平面図面)と安全対策図面
現在の音響機器は重量があり、転倒、落下事故があった場合人身事故に繋がる。そのため音響機器を設置する舞台平面図に安全対策図面を添付して、舞台監督、劇場担当者、照明担当者に提出することを義務とする。

③ 安全予防装備の支給
 会社は社員全員に安全意識向上、事故予防のために以下の装備を支給する。
1、氏名、生年月日、血液型を表記したヘルメット1個
2、安全帯1個
3、安全靴1組
4、ヘッドライト1個

④ 搬入、搬出、舞台準備の作業の安全対策
1, 重量物を扱う場合、必ず2名以上で作業を行うこと。
2, 作業衣、作業靴は身軽、且つ引っかかりの無いものを着用すること。
3, 素足に草履は禁止。鉄骨を使う現場は必ず安全靴に履き替えること。
4, 所用のため持ち場を離れる際は、未完成の部分、設置場所の安全確認を行い、チーフに伝えてから離れること。
5, 高所作業をする場合は、必ず支給されたヘルメットおよび安全帯を着用し、安全確保を確認してから作業に取りかかること。
6, 音響機器をバトン等に吊ったりする場合は、機器の重量に合わせて落下防止対策を施すこと。この対策を必ず安全対策図面に著すこと。
7, 機器管理とは「機器の不備箇所の補修と清掃」のことである。不良機器の使用は事故誘発の原因となりうる可能性がある、と同時に対外的に不信の原因を作ることになるので、日頃のチェック、管理を徹底すること。
8, 機器転倒、くずれ防止策を必ず施すこと。この対策を必ず安全対策図面に著すこと。
9, 舞台の安全な通行確保の為、ケーブルの養生を徹底すること。客席内では、観客の歩行の障害にならないように黒パンチやゴムマットなどで養生を行い配慮すること。ジョイント部分は特に注意すること。また客席内に操作ブースを設ける際は、ひっかかりなどの事故の防止の配慮を施すこと。

⑤ 社員情報の収集と管理
 事故発生時及び緊急時、医療機関等への情報提供が円滑に行われるように適切な情報収集と管理を行っておくこととする。取り扱う情報には次の事項が必携されるものとし、 個人情報の収集、使用に関してはあらかじめ書面にて同意を得るものとする。
① 氏名,住所,緊急連絡先,家族構成など
② 現病歴,既往歴,服用中の薬やアレルギー,その他の医療的情報
③ 毎年の健康診断の結果
④ その他、医療上必要と思われる事項

⑥ 事故発生時の社内体制の確立
事故が発生した場合は、事故の大小にかかわらず 事故対策委員会 を設置し、迅速な事後処理と対策を講じる。なお委員会の委員長は代表取締役とする。

第3章 事故発生時の対応


1、事故発生時の基本的事項
 舞台や現場で発生した事故は、当社の事故防止についての具体的な安全対策や教育をどのように実施してきたかという、会社としての理念が問われることになる。
 事故の要因としては不注意による要因と、外的要因があり、事故の状況に応じた迅速な対応と事故処理が求められる。また被害状況の如何にかかわらず、施設管理責任者、被害者およびご家族への謝罪を最重要視し誠意ある行動をすることを基本とする。

2、事故対応の責任体制
(a) 事故対応の流れ
 人身事故の場合、現場チーフは事故の大小にかかわらず迅速に医療機関、警察に連絡し、被害者を医療機関に搬送し、医師から症状説明を受け、事故報告書を会社、現場制作会社に提出する。その報告を受け、会社はご家族、保険会社等へ連絡し事後処理を誠意を持って行う。
 また警察の事情聴取には、現場チーフは必ず事故報告書、仕込み図と安全対策図面を持参、提出する。
 劇場設備を破損した場合、現場チーフは事故の大小にかかわらず、迅速に劇場音響担当者に報告および誠意をもって謝罪をし、事故報告書を会社、現場制作会社に提出する。その報告を受け、会社は劇場音響担当者、劇場管理責任者へ謝罪をし、損害に対する保証を誠意を持って行う。
(b) 事故の責任の所在
 人身事故、物損事故の如何に関わらず、事故の主責任者は当社の代表取締役とする。なお本人の不注意による小さな怪我については、本人の責任とする。

3,人身に関わる大事故を起こした場合の緊急処理および連絡系統
 現場チーフはまず代表取締役社長に連絡する。社長は事故対策チームを結成し、現場医療機関へ出向き、症状説明を受け、被害者および被害者ご家族へ謝罪をし、症状、事故詳細説明を行う。後に各保険請求手続きを行う。

第4章 事故防止の為の作業および機器設置規定


(1) 舞台機構による事故防止規定
 迫り、すっぽん、盆、スライディングステージ、綱元、キャットウォーク、照明ブリッジ 、奈落など舞台機構には、死亡事故に直結する危険な機構が多く存在する。劇場に入る前に仕込み図を元に良く確認しておくこと。劇場に入ってからは、音響仕込みに関係がある機構や装置は事前に安全確認をしておくこと。

規定-1
舞台監督または音響チーフの指示のもと作業をすること。また公演中に移動や上下する舞台機構、装置には決して近づかないこと。

(2) 高所作業および機器落下事故防止規定
規定-2
キャットウォーク、照明ブリッジ、脚立、ジニーなど高所で作業する場合は会社が支給した ヘルメット、安全帯を着用すること。(労働安全衛生規則 第518.521)
また必要に応じてヘッドライトを付けること。高所へ工具を携帯する場合は必ず落下防止を施すこと。さらに作業終了時には、工具、ボルトなど忘れ物がないかどうか最終確認を行い降りること。
奈落、すのこなどで作業する場合は、お互いに作業員の姿が見えないので、トランシーバーで連絡を取り合いながら作業をすること。

規定-3
バトン・トラスなどに吊り込み作業をする場合は、必ず事前に劇場管理者へ重量制限数値、取り付け方法の打ち合わせをし、舞台監督から必ず許可を得、上下に二人付いて作業を行い、作業中は離れないこと。
止む終えずバランスを崩した綱元は舞台全スタッフに周知させ、ロープをよじり、足元ストッパーを締め、ロープによじりを作り、その間に小割りを挟み込む。後にしず(おもり)を調整すること。ただし綱元の操作は基本的に舞台スタッフにお願いし手を出さないこと。

規定-4
バトン、ブリッジ、装置などの高所への音響機器取り付けは二重の落下防止安全策をとること。
ハンガーの止めねじ、落下防止用チェーン、ワイヤー、スリング、ラッシングベルトなど細部に渡りチェックをし、機器落下防止に細心の注意を払って設置すること。また作業中は関係者以外を近づけないこと。また周りに作業中であることを伝えること。

(3) 機器の転倒防止、くずれ防止、落下防止規定
音響機器を舞台面以上の高さに設置する場合はラッシングベルトやロープで転倒防止を施すこと。スタンドの移動は各ネジがしっかりと止まっていることを確認した後、両手で持って移動すること。万が一危険だと感じた時は複数人で作業すること。

規定-5
メインスピーカーの転倒、くずれ防止、スタンドスピーカーの転倒防止、床置き、箱馬乗せスピーカーの転倒、くずれ防止、バトン吊りスピーカー、マイクの落下防止対策は別途安全対策図面のとおり設置すること。

(4) 火災予防対策
 抵抗に電流を流すと必ず発熱する。この熱をジュール熱といい、電力を4.2で割った結果が発熱量になる。消費電力1KWのパワーアンプは毎秒 1000(W) ÷ 4.2 =238カロリーの熱を発生する。1カロリーとは、1CCの水の温度を1℃上昇させる熱量のことをいう。
電線には1本の導線で出来た線(単線)と数本の単線を撚り合わせた撚り線がある。単線はその直径をmmで表し、撚り線はその断面積をmm2(ミリスクェア)で表し、電線とその太さを表示する。

 配線には特別な場合以外、絶縁物で被覆した絶縁電線を用いる。これには600Vビニール電線や600Vゴム絶縁電線が多く用いられる。他に600Vポリエチレン絶縁電線、引き込み用ビニール絶縁電線等もある。移動電線としてはキャブタイヤケーブルが多く用いられている。キャブタイヤケーブルにはゴムタイヤケーブルとビニールキャブタイヤケーブルがある。当社では以下の2PNCTケーブルを使用する。



音響機器はスイッチONにしたら、熱源であることを認識すること。


規定-6
音響機器を複数使用する場合は、各機器の消費電力を合計計算して、許容電力ぎりぎりで はなく、2倍以上の電源ケーブルを選択すること。
また20m以上の長尺ケーブルを使用する場合は消費電力の大小にかかわらずドラム式に巻かないこと。(電源ケーブルが電熱器化する)
被覆がはがれた電源ケーブルは火災、感電事故の要因なので使用しないこと。定期的なメンテナンス(一年に一度のメンテナンス実行義務)の際はC型コネクタを開け、圧着端子からの裸線の露出具合及びネジ締めを確認すること。緩みにより無意味な消費電力増大になるばかりか、ショートした場合、火災となる。

規定-7
一年に一度ケーブルメンテナンスを実行すること    

(5) 接着テープ、養生マットの使用について
 ガムテープなどの接着テープの使用には劇場の担当者に確認を取ってから作業すること。